「かゆみと恋と、ひと夏の奇跡」

地味で目立たない根暗系女子・彩花（あやか）は、大学でひっそりと過ごす毎日。だが、ずっと憧れていたキャンプサークルの夏合宿に、勇気を出して参加することを決意する。

「どうせ浮くだけだよね…」

そんな弱気な気持ちを抱えながら山奥のキャンプ地へ向かうが、案の定、陽キャなメンバーたちの中で居場所を見つけられず、焚き火のそばで一人静かに虫除けスプレーを噴いていた。

そのとき――

夕暮れと共に、山の湿気に誘われた大量の蚊が突如として現れる。

「うわっ！かゆっ！」「なんかもう無理！」「虫除け効いてないじゃん…！」

パニックになるメンバーたち。

その中で、彩花はバッグからおもむろに**「超音波式かゆみ止め」**を取り出した。

「あの、これ…よかったら使ってみてください」

興味本位で使ってみた男子が一言。

「……え、マジでかゆみ消えたんだけど？」

そこから一気に彩花のまわりに人が集まり、「どう使うの？」「これどこで買ったの？」と質問の嵐。

中でも、一番熱心に話しかけてきたのが――

サークルの中心にいるイケメンで爽やかな男子・悠真（ゆうま）だった。

彼は誰にでも優しいタイプ。でも、彩花だけには他の誰よりも熱心に話しかけ、彼女の静かだけど芯のある言葉に、次第に惹かれていった。

キャンプの最終日。

夜空の下、蚊の襲撃から救ってくれたヒーローに向かって、悠真は告げた。

「彩花って、なんかすごくカッコいいよ。……俺、もっと知りたい」

その言葉に、彩花の頬は真っ赤になった。

－－－

それからふたりは付き合いはじめ、卒業後もずっと一緒にいた。

プロポーズの言葉はこうだった。

「俺の人生、ずっと“かゆみゼロ”でお願いします」

「……バカじゃないの？」

笑いながら、彩花は泣いていた。

そして数年後、ふたりの結婚式には、キャンプサークルの仲間たちが集まり、誰かがこう言った。

「この恋のキューピッドは、超音波だったってことね！」

夏の蚊と、ひとつの小さなアイテムがくれた、

忘れられない恋の始まりだった。

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