第1話:部長、デート前に香水を買う。人生初。
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キャラクター
原田 真二(44)
IT企業の部長。仕事はできるが、会話はできない。独身。コミュ症。加齢臭の自覚あり。
日野 美穂(44)
同じ会社の総務課。20代の頃からの同僚。結婚願望強め。最近、お見合い6連敗中。
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本編
「部長って、なんか……いつも無臭ですよね」
その言葉を放ったのは、総務課の日野さんだった。昼休み、給湯室。お湯を注ぎすぎてカップラーメンが浸水してしまったそのときの会話である。
俺、原田真二、44歳。IT企業で部長をしているが、女子との雑談レベルは中2で止まっている。
それでもなぜか最近、日野さんと話す機会が増えている。
無臭——。それは褒め言葉なのか、加齢臭を気にした発言なのか。
その夜。俺はネットで「男 香水 おすすめ 40代 加齢臭 モテたい」と検索していた。
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「これが……“モテ香水”…?」
届いた香水は、白いボトルに金色のキャップ。
レビューに「これつけたら彼氏できました♡」と書いてある。関係ないけど希望が湧いた。
問題は、どうやってつけるかだ。初めてすぎて分からない。
YouTubeで「香水 つけ方 初心者 男性」と検索。結果、耳の裏に1プッシュと学習。
翌朝——。俺は出社前に耳の裏にそっと香水をつけた。
鏡の前で自分に言い聞かせる。
「落ち着け…これは“自信”の匂いだ」
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出社すると、日野さんが俺に近づいてきた。
ちょっと香りが強すぎたかもしれない。不安になった。
「……あれ? 部長、今日なんか……いい匂いしますね」
その一言に、俺はたぶん人生で初めて、心の中でガッツポーズをした。
だが、次の瞬間。
「ていうか……加齢臭とローズ混ざってる感じ? なんか、お線香?」
……
この瞬間、俺の中で何かが弾けた。
もういい。逆襲してやる。全員に。モテない人生に。
この香水で、俺は変わる。
たぶん。
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(第1話終了)
▶次回:「加齢臭とローズの狭間で」——部長、香りに悩む。
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