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【妄想シチュドラマ 第２話】
想い人、期限付き。――フルボ酸エキスの奇跡
「ねぇ、知ってた？あのフルボ酸って、洗顔にも使えるし、飲み物に混ぜてもいいらしいよ」
職場の雑談で聞いたそんな話が、まさか自分の運命を変えるとは思わなかった。
隣室の住人・真壁が夜な夜な部屋で奇妙な実験をしていた。壁越しに聞こえる、不規則な水音と、時折響く誰かの声。興味本位で覗き込んだ僕は、信じられない光景を目撃する。
ガラス瓶に一滴、琥珀色の液体。
それが落ちた瞬間、無色のゼリーのようなものが、どくんと脈打つ。
それは――真壁の“コピー”だった。
後日、部屋に誰もいない隙を見計らって僕は忍び込んだ。 冷蔵庫の奥にあったのは、「原液フルボ酸エキス」と書かれた500mlのボトル。
原材料は約1億年前の古代植物堆積層から抽出されたミネラル―― 70種以上の植物性ミネラルがバランス良く含まれ、飲用はもちろん、洗顔やスキンケアにも使えるという。抗酸化作用が高く、希釈して肌や髪にも使用可能。無添加でペットにも使える。……そんなことはどうでもよかった。
僕はただ、想い人の“結衣”を創り出したかった。
ゼリーの核に指を差し込むと、心の中で描いた姿が、ゆっくりと現れた。
「……おはよう、わたし、誰？」
完璧なコピーだった。
香り、声、しぐさ。全てが本物の結衣そのままで――どこか、優しかった。
彼女は僕を好きになってくれた。
僕は彼女を知っていた。すべてが完璧だった。
でも、コピーには“消費期限”があった。７日間。
第６夜、彼女の瞳に霞がかかり、皮膚が徐々に薄く透けていく。
焦った僕は、真壁に詰め寄った。彼は静かに語った。
「お前も……気づいてないのか。
お前も“あの”原液から生まれた存在なんだよ」
翌朝、目が覚めると、彼女の姿はなかった。僕もまた、手のひらが透けていた。
ベッドの横に、1本のボトルが置かれていた。
『フルボ酸原液 500ml』
――再び、恋を始めるか、それとも現実に戻るか。
僕はボトルを手に、静かに微笑んだ。
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